後書き――ついに大団円だいだんえんだね――


 私は小さい頃(……いえ、割に最近まで)、「大団円」を「大円団」だと思っていました。いや、その方が言いやすいような気がしていたのですが……必ずしも言いやすいのが正解とは言い切れないのですね。
 という訳で、一応の完結を迎えました、プロジェクトSTEB。長くて短い一年間の連載。落とすとタイトルトリックが壊れると言う理由でどうしても落とせないと言う恐怖。話が終わらないかもしれない・または足りないかもしれないと言う脅威。私の思惑を無視しまくって、(文字通りの意味で)勝手に突っ走ってしまうキャラクターたち。突然降ってくる結末のアイディア。……ええ、実はこの結末は、(部誌掲載当時、三月号の)締め切り当日の授業中に、突如天から降ってきたものなのでした……。しかし、アイディアもらうのはありがたいんですが、授業中に笑いそうになったのは困りました。何せ、含み笑いですから。
 最初は、志津馬が幽霊であったことに気づいて愕然とする友典たち(友典は志津馬の葬式に出て遺影で顔を見たことがあるのです)、平気な由乃、一人勝ちして高笑いする秀一、というエンディングを考えていました。で、そのままだったら、地下倉庫に戻された設計図に霊気が溜まって数年後に志津馬復活、という話で、その復活シーンの描写は何度も反芻して覚えこんだくらいだったのに、結局使いませんでした。まさか志津馬が二人なんてとんでもないことになろうとは……。
 その他にも小さなネタはたくさんあります。最初は秀一さんだってこんなにでしゃばってくる予定はなかったし、奏流の夢の中の秀一さんが桜都に移動して活動云々なんてありもしなかったのです。夢の中の秀一さん自体いなかったのですから当然ですが。
 それから、何回か前に来兄さんが由乃に至って抽象的な表現で情報を伝えますね。引き合いに出されたのが釈迦と孫悟空(結構ありがちな喩え)でしたが、私から捉えた彼ら三人(秀一さん、奏流、志津馬)の関係はトランプの方が適切です。結局文が余計に冗長になるので入れなかったんですが、志津馬がスペードのエースで秀一さんがジョーカーと配置していたら奏流という伏兵が発生したことが判明し(この時点では実は、まだ奏流がああいう行動に出ることは思いついたばかりだったのです)、慌てて考えた『二枚目のジョーカー』なる表現がいた甚く気に入ってしまったのですよ。
 最後なので、タイトルの仕掛けをばらします。各話サブタイトルと後書きサブタイトルを順番通りに並べるんです。ひらがなで。それの一番上の文字と下から二番目の文字を、それぞれ右から読むと……。
 りでーのふぎ(休日の不思議)
 じゃ、はじめますぁ(んじゃ、始めますかぁ)
 うしろう、しょうつ(藤四郎、消失)
 まくいかないりう(うまくいかない理由)
 ぞむこころはつばさのよに(望む心は翼のように)
 っとよゆうをもつべか(もっと余裕を持つべきか)
 しきものたちのい(奇しき者達の思惟)
 つやせいかつけいぞくちう(徹夜生活継続中)
 かいをめぐるいちだいそうど!(機械を巡る一大騒動!)
 なはだしくいそがしよ(甚だしく忙しいよ)
 こにはるかなるおもいみよ(此処に遥かなる思い満ちよ)
 どものむくさがうらやまい(子供の無垢さが羨ましい)
 くなことなどおこらないず(ろくなことなど起こらないはず)
 したはぱた(明日はパスタ)
 てんするうんめい、きたるべきりつ(流転する運命、来るべき離別)
 のうのあれ?ちょっとまってね(昨日のアレ?ちょっと待っててね)
 そうせかいはいつでもとく(仮想世界はいつでも遠く)
 つのまにやらもってるひつ(いつのまにやら持ってる秘密)
 くごのほどをためされるき(覚悟の程を試される時)
 っとうかぶーびーしょうをねらう(一等かブービー賞を狙おう)
 ーと・あんど・そうるにいきてくあた(一生懸命に生きてく明日)
 いにだいだんえんね(ついに大団円だね)
 はい。つまりはこういうことでした。
「本当の目的は心ある機械開発」「しかし結城秀一氏は全てお見通しだ」。これを織り込むために後書きサブタイトルと、おかしな各話タイトルがついたわけです。参考までにこれを読み取るためのヒントは、二月号後書きタイトル「一等かブービー賞を狙おう」。一等=一番上、ブービー賞=下から二番目、ですから。しかし通して読まなきゃわからないのは不便でしたね。もうちょっと他の手を考えるべきでした。
 一年間タイトル付けに苦労した甲斐は、ありました。因みにこんなものを思いついたのは、一年と二年の間の春休みに清涼院流水氏(かなり有名になってるミステリ?作家さんです。「?」は疑念ではなく一種の敬意です)の本にはまっていたからです。なんか自分でもやってみたくなっちゃったんですよね。もちろん当然言うまでもなく(強調)、私のほうが断然稚拙ですが。
 ところで、今回消した設定ながら、連載中での奏流の正式名称は[STEB‐SOUL]ではなく〈STEB U‐HEAT TSモデル〉といいました。作中で上手く説明できなくて消しちゃいましたけど。
 U‐HEATは『理解する―人の感情(と)抽象思考(を)』=Understand‐Human Emotion (and)  Abstruct Thoughtです。そして、TSはTrue‐Souled、『真に魂ある』ですね(英語にはBlue‐Eyed Girlとかいう表現があるでしょう?あれに倣ったんですが……)。因みに桜都はSTEBのノーマル(U‐HEAT、TSモデルではない)に秀一さんが独自に手を加えた改造型で、相当手を加えたらしく奏流より感情表現が豊かです。……ああ、志津馬の立場がないですね。それはもう全然まったく(またもや強調)。
 それから、別に大きくもないけど後書きで解説したい伏線がふたつ。
 まず、第一話で月藻さんが出てきてしまったのは、霊気の供給源となる藤四郎が近くに居てしまったから、が答えでした。由乃はあの時点でそれに気づいていましたが(はっとしたのはその為)。
 それから、第三話で皆が皆眠かったのは、実は彼らは一睡もしないうちに夢の世界で覚醒したので、脳神経が全然休まってない為です。
 以上、途中で書くわけにも行かず放置してた伏線でした。後は……結局こいつら、日数的に五月一日二日は無断欠席してるじゃん、とか。
 えーと、何かまだいろいろありそうですが思いつけませんので、最後のオチに理屈がつくかどうかだけは考えてみたいと思います。
 結論から言って、とりあえず理屈はつきます。消えかけた志津馬の存在は駆けつけた来さんによってとりあえず保護されました(そのためにこの時、来さんは『内部』に入って来られないのです)。その後で由乃と保幸が、地下倉庫に移された(この時点で地下の龍脈から霊気が補充されている)設計図に向かってお祈りをします。しかし、もともと「死者が生き返るのは不自然」という思想を持つ保幸は『志津馬が生まれ変わる』ことを祈り、由乃はそんなこと思ってもみないので『志津馬がそのまま復活する』ことを祈った、という説です。そもそも消えかかっていたものが、いかに一流の術者が二人祈ったと言っても果たして分量二倍(何か違う気がする、この表現)になって復活するかどうか、がこの場合おかしい点なのですが。
 何だかんだで、志津馬が二人できてしまいました。これから一体、どうなるのでしょうか?
 ――しかし本当の結末は、これから彼ら(または、読者であるあなたがた)が決めるのです。……現在、私は何となく続編らしきものを思いついていたりしますが。
 ええと、この後にまだ本編総合後書きがありますので、詳細は後に回します。――では、失礼します。

水門 清哉 拝。


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