どうしよう。どうすればいい?
 どうすれば二人の見分けがつく?
「……火奈ちゃん!空から・・・二人の位置を見て来て!」
「了解。由乃姉さま」
 言うなり地を蹴り、そして由乃の肩を蹴って、赤い和服の少女は真紅の鳥に変化した。首が長く、翼が広い。そのまま青空へと舞い上がる。
「……秋さん、一体どっちを追うべきでしょう!?」
「え、由乃に区別つかないものがあたしにつくわけが」
 慌てる二人の目線のはるか先、にょきにょきと緑の何かが地中からいきなり育つのが見えた。
「……」
 思わず沈黙して見守る。
「姉さま、こっちのが今七十メートルくらい進んでて、まっすぐが竹のちょっと前」
 火奈の報告ではよくわからなかった。
「……いっそ、二手に分かれましょうか」
「あたし一人だとどうにかできる自信あんまりないよ。ややこしくするばっかりなんじゃないかな」
「そんなことはありませんって」
 ――とは言いながらも、確かに秋と奏流と志津馬では組み合わせが悪いような気がしてしまう由乃である。ノリが合わないとでも言うのだろうか、今ひとつ、互いの話がきちんと聞けていない気がする。
(決めなければ、……けれど、どっちを追えばいい……!?)
 そのとき、
『由乃、追うのは藤沢志津馬じゃないだろう?』
 声が聞こえた。
「兄さま!」
 ゆっくりと来が姿をあらわす。秋にも見えたようで、びっくりした顔をしていた。
 来は難解な言葉を続ける。
『……追うのはそっちじゃない。答えはもともと一つしかない。選択肢は無意味だ、わかるな』
「選択肢は……無意味?」
 答えは一つ。
 一体何が――あ。
「「……奏流!」」
 秋と由乃の声が綺麗に重なった。
『そう、彼は最終的に、確実に藤沢志津馬にたどり着く。そちらを追うんだよ。様々な意味で追うべきは彼のほうだ』
「来兄さま、ありがとうございます!」
 言って由乃は、火奈を呼び戻し。
「月藻さん、私と秋さんを載せて飛んでください!」
 月藻に、はっきりと命令を下した。

 鳥瞰ちょうかんとはこういうのを言うのだな、と秋は感心した。信じられないほどに景色が違う、いや、違ってはいないはずの景色が非常に新鮮に見える。
 銀色の巨犬の背中に掴まって空を飛びながら考える事としてはいささか気楽過ぎるような気もしたが、まあそんなことを突っ込む人もいないからいいのである。
「……由乃、いたわ。あそこの屋根の上を跳ねてる……藤四郎を追ってるみたい」
「はい。……月藻さん、直接視野に入らない程度に降下してください」
 志津馬はどこに向かっている?
 どこで勝負を決めるつもりだろうか?
「――このまま行くと結城本社ビルね。まあ、黒いけど」
「……なるほど、この場合で言う『世界の中心』はそこにあるわけですね」
 志津馬と奏流がビルに入る。しかし由乃と秋はそのまま、
「どうせ夢ですし。壊しても誰も怒りませんよね」
「ええっ!?」
 ……そのまま、月藻の前足の一撃で窓を壊して中に飛び込んだ。
「由乃って結構容赦ないのね……」
 苦笑する秋に、肩をすくめて見せながら。
「そんなこと気にしている場合じゃないですから。さあ、急いで追いつきましょう。遅刻したらしゃれになりませんよ」
 二人は志津馬と奏流の気配を探りながらビル内を移動し始めた。

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