「ああ、あああ、あああああ」
 あまりのことに絶句して、しっかり言葉が出てこない。
「……二人とも見えない、地面に落ちた様子もないぞ!」
 そんな秋に、英晴が報告する。
「……あ……な、何ですって?」
「だから、どっちも落ちてく間に消えたみたいだって言ってんだよ」
 そんな馬鹿な。
 と思って窓の外を自分で覗きに行って見たが、地面までなんてさっぱり見えなかった。
「……見えないじゃない」
「いや、おれには見えたんだって」
 見えたかもしれないが、そうはっきりとは見えていないはずである。
「……取り敢えずいったん帰りませんか?この階にいるままでは状況がわかりませんし……それに、何かあれば友典さんの自宅にも連絡は入りますよ」
「そうだよ、帰ろ」
 最近奏流は誰かの意見に同意することが多くなった。そしてたいてい採用されるのは、その彼が同意した意見なのだ。
(……同意される以上、これはこの子の望みに一致しているはず……)
 つまり――万が一奏流が友典の死を望んでしまっていた場合を除いて、家に帰れば友典の無事が確認される、はずである。
(懐いていたから大丈夫だと思うんですけどね……)
 しかし、もし奏流が友典を助けていなかったとしたら――いや、考えまい。どうにかなってみなければわからないことだ。
「そうね、じゃ、しょうがないから帰ろうか」
 ……秋もまた、故意に奏流に合わせている、と由乃は気づいた。彼女にとっては冷静な判断などできる情況ではないはずなのだ。
「ほんまかいなぁ……」
 一粋が疲れたように呟いた。

 そして案の定。
「……お帰り」
「……あ、やっぱり……とにかく、ただいま」
 友典邸の前で、その持ち主が五人を迎えたのだった。
「うわーっ、わーっ、わーっ!幽霊や幽霊や!」
「何で……!!何でいるんだよ!?」
 さっぱり事情のわかっていない一粋と英晴が大騒ぎした。奏流も同調してわあわあ騒いでいるが、これはただ単に二人が一見楽しそうに見える――もちろん実際は楽しくないが――から、だろう。
「幽霊じゃないわよ、足があるじゃない」
 秋の強気な断言に、
「あの……足のある幽霊の方もいっぱいいらっしゃいますし、幽霊だったら、あなた方にはきっとはっきりは見えませんよ?」
 由乃が苦笑交じりで付け加えた。
「ま、生きてたことは『きっと奇跡が起こったのよ』で済ましちゃうとして……」
「いや、済まされても困るって」
 英晴が秋に突っ込みを入れた。
「しょうがないじゃない、起こったことは変えようがないわよ。……とにかく、済ますとして……何ですぐに、無事だって教えてくれなかったの?あんな状況でいなくなったら、心配するでしょ」
 なんだか母親みたいな言いぐさではある。
「……いや、僕が歩いてここまで帰ってきたわけじゃないんだ。窓の外に飛び出して、部屋で爆発が起きて――目をつぶってしまったからわからないけど、多分その後もう一回爆発があったんだろう。それに押し流されて、……そこから先はよくわからなくなった」
 そして気づいたら自分の部屋のベッドで寝ていたのだ、という。
「――何それ」
「知らないよそんなの……というわけだから、知らせに行けるような状態じゃなかったんだ。僕だって心配したよ、誰か巻き込まれなかったかと思って」
 無事みたいだけど――と皆を見渡し、茫然自失の態でいる一粋にきゃあきゃあ言いながらじゃれている奏流を見て友典は苦笑した。
「そうですか。……何か、おかしなこととか」
「ああ、そうだな……意識がなくなる寸前に、なんか、誰かに抱きとめられるような――救い上げられたような感覚があったかな。いきなり空気の流れがなくなったかな、と思ったような……」
 由乃は、無邪気に遊んでいる奏流を見た。その視線に気づいているのかいないのか、少年は一粋の白髪混じりの髪をいじっている。
「……あ、こら、やめてぇな!確かに若白髪ばっかやけど、抜いていいなんて言ってへんで!」
 一粋が我に返って奏流を追いかけると、それもまた面白いようで追いかけっこになってしまった。
「……とにかく、無事でよかったわよね」
 いささか強引に、秋はその場を、まとめた。

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