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「……奏流そのものに干渉されずに、ぼくたちが『内部』で動き回る方法を考えないといけませんね」
 自由に行動できるように、とは行かないまでも、致命的な干渉くらいは避けなければならない。遊帆には『参加者プレイヤー』としての干渉はさせない予定だが、自分は今現在『内部』にしかいない存在である。必然的に『参加者』とならざるを得ないのだった。
(――ああ、そうか。ぼくは今……奏流、君の夢の中にしかいないんですね)
 自分がどんなにおかしなものになってしまっているのかは、よくわかっているつもりだ。他者の――しかも電子頭脳の見ている夢の中で、生きているかのように動いている、幽霊。
(……前例がないだけに、研究のしようもないですね)
 さすがに苦笑する。第一人者、と言うわけだが、後に続く者などできればいてほしくない。
(……自分の手で、壊さなければならないものなんて創るのは)
 ぼくだけでいい。
 こんな辛い研究をするのは。
 ……だが、彼はまだ気づかない。本当に理解するべきことが、何なのかに。
 そして、自分もまた奏流の干渉を受ける立場にあることにも、彼は気づくことができていなかった。

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 最後の黒ずくめを蹴倒して、友典は仲間たちを振り返った。
「みんな、無事だね?」
「秋がいなくなっただけだ。他はみんな、怪我一つないよ」
「ないよー」
 英晴の返事を奏流が繰り返す。
「……しかし、どうしようもないことになったもんだね」
 実の兄に向かって、あの野郎、と言わんばかりの表情をする友典である。まあ気分はわからなくもない。
「どこに行ったんだかわからんと、追いかけるのは難しいなぁ」
 一粋が考え込む。だが友典は窓の外を見て、
「ああ。……だけど、その心配はないみたいだ」
 呆れた声で、呟いた。
「器用な兄貴だよ、全く!」
 視線の先にあったものは。
「……く、黒いけど、あれは結城本社ビルなんか?」
 まるで、以前立っていたものの影ででもあるかのような、真っ黒な色をしたビルがそこに屹立していた。
「……今朝まではなかったと思いますけど……」
「最近いろいろ起きるから、今さらこんなことで驚かないぜ」
 由乃の言葉に、英晴が応じた。
「行くか?」
「ああ。……おっと、ちょっと待ってくれないか」
 友典は目を点にしている『みずな亭』の店主に向き直る。
「……この度は、兄が大変なご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんが今、僕には修理費に十分なほどの持ち合わせがありませんので、どうぞ遠慮なく結城本社に請求書を叩きつけてやってください」
 ……激励というか何というか、とにかく「よろしくお願いしますっ」とでもいうような勢いで友典は言ってのけた。
「……お茶目なお兄様でいらっしゃったのですねえ」
 店主は拍手でも始めそうな様子である。多分呆然として、もはやろくに頭が動いていないのだろう。そうでなければおかしい。
「……滅多におられないタイプの兄上ですから、どうぞ大事にして差し上げてください。何、戦後の復興期に店を興した時に比べればこれくらいたいしたことはありませんよ」
 ……ひょっとすると本気かもしれない。
 店中に散らばったガラス片が果たして店主には見えているのか、思わず疑いたくなってしまった英晴だった。
「……とにかく……行くでぇ〜」
 どうにも気合の入らないときの声を上げた一粋を先頭に一同は『みずな亭』を出発し、一路『黒い結城本社ビル』に向かった。

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