「出せー、ここから出しなさーい!何よもう、どこよここ!」
 声と、大騒ぎする音が聞こえてきた。秀一は苦笑する。
「……お嬢さん、落ち着いてくださいよ」
 ドアの向こうの秋に話し掛ける。うかつにドアを開けたら怪我をしそうだ。
「出てきたければ出てきていいですよ。今鍵は開けますから。……でも、そこが僕の自室だから、そっちで話をしたいんですけどね」
 なるべく丁寧に、秋を刺激しないように話した。
「……誘拐犯に言われても信用できない」
「なるほど、それは当たり前。ではどうしたら信用してくれます?」
 返事は至って簡潔。
「帰らせて」
 それに返せる言葉も、簡素の極みだった。
「できません」
「何でよ?」
「どうせもうすぐ追ってきます。今出てもらうと行き違いになってしまいますからね」
 ひたすら下手に出て懐柔するのは少々苦手だ。何か企んでいるとか、商売の上で重要な交渉の際なら別だが、何をするでもなくただ会話するためにやっていると思うとばかばかしく感じ始めてしまう。
「……それに、ちょっと話がしたい。僕も先ほどもらった情報ですけどね……あなたたちが今いる立場の危険性について――」
「……危険性?」
 秋がようやく話に乗ってきた。
「そう、危険性ですよ。……彼は誰にも気づかれないように思考を操作している。由乃さんにはわかったみたいですが、……思い出しませんか?この世界はあなたたちの世界じゃない・・・・・・・・・・・・・・・・・、あなたたちは『来訪者』なんですよ?」
「……入って来なさいよ」
 その部屋は本来、秀一の部屋なのだが。
「入りますよ」
 ドアを開けて中に入ると、身構えた秋が彼を睨んでいた。
「……ああ、秋さん、向こうに掛けてください。立ち話もなんですからね」
「変な仕掛けはないわよね?」
「そんな失礼なことは、少なくともこちらの僕はしていないですよ。……現実の僕はどうか知りませんがね」
 肩をすくめて見せる。
「何か飲みますか。……ああ、信用してくれてないんじゃ嫌なのかな」
 苦笑して、ちょっと寂しげにして見せる。真実を話すのに演技で塗り固めるなんて矛盾してるな、とちょっと思った。
「……そういうんじゃなくて、今、喉乾いてないからいいわ」
 結構かたく頑なである。秀一はとりあえずその件は置いておくことにして、自分の席に着いた。
「さて……どこから話せばいいかな」
 女子大生と一大企業の重役というどこか奇妙な組み合わせの、だが実に真剣な話し合いは、そうして始まった――。

To be continued   


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