*      *      *

「――なかなか……凄いことになってるようだな」
 思わず苦笑して秀一は呟いた。
「なりふり構わずやる・・つもりか」
「何を、ですか?」
 桜都が、本当に不思議そうに質問してくる。
「志津馬たちも事態に気づいているという事だよ。恐らく、これは実験を兼ねた時間稼ぎだ。けりをつけるために準備を始めているね」
「……?」
 説明したのに、桜都には伝わらなかったらしい。
「何か、起こっているんですか?」
「何かって……」
 ――そうか。もともと『内部なか』にいた桜都にはわからないわけだ。
「……フランケンシュタイン・コンプレックス」
「?」
「――で、間違ってないかどうかは自信がないけどね……。コンプレックスだったかシンドロームだったか、とにかくわからなければ自分で調べてみなさい。自分で調べた方がよく覚えるというし」
 機械にはあまり関係ないような気がするが。
「さて……じゃあ『僕』に連絡を取らないといけないか」
 待っていることだろう。
 状況を見れば自分が連絡するだろうことは、予想しているはずだ。
 だからこそ彼は、「もうすぐわかることだけどね」などという台詞を吐いたのだ。
「……しかしここまで読まれてるってのも、何か気に入らないな」
微妙な表情で呻く。
 いつもは人の行動を読む側にばかりいるだけに、読まれるのはどうにも気に食わないのだ。
 桜都に命じて『結城秀一』を呼び出させると、案の定彼は、
『やあ、待っていたよ』
 と言って不敵に笑った。
「……待たれてる気分ってのも微妙だ、ということがよくわかったよ」
『おやおや』
 画面の中で肩をすくめる『秀一』。
『羽澄氏から指令が下ってね。……ひっかきまわせ、と。だが僕には何が起こっているのか把握できなかった。正直言って歯痒いよ、この僕が後手に回るなんてね。しかし……恐らくは外部の人間にしか理解できない事項だろう?桜都もわからないと言っていたからね』
「ああ。……君たちの場合は、まさしく気づくことができない部分で起こっている出来事だからね。もっとも桜都は気づいていてもおかしくないはずだが……やはり影響を受けやすいのかな、同類同士」
 そう、気づくことができるはずがない。『秀一』はあの世界の一部なのだから。
「……君に状況が把握できないのは、夢の中に存在するものが、『本当に夢を見ている主体』を上回ることはないからだ。夢の中に存在する主体は脅かされうるけどね」
『夢……か。そうはっきり言い切られるのも辛いものがあるね』
「それもそうか。……しかし今回の場合、内の主体と外の主体は完全に一致しているな。これがある種の『機械の限界』なのか、それとも彼自身の特性によるものなのかは知らないが……なかなか厄介な相手になりそうだと思わないか?」
 自分が夢を見ていると知っている。人間ならばそれに気づいても思い通りに夢を見るのは困難だろうが、機械の脳は今現在、大部分が自らの思考によって制御されている状態だ。
『そうだね……まさか万能者相手の戦いとは、ね。ところで……見ていたならわかるだろうが、今僕の元に秋さんをお招きしている。……と言っても、攫ってきたんだが』
 彼女に真相を明かす……それともせめて、真相のヒントだけでも与えてやるべきだろうか、と『秀一』は言った。
『多分ラストチャンスだと思う。この件が終わったら、友典に殺されてしまいそうだからね。……目的もなく連れてきたわけじゃないんだ。彼女は聡明なひとだよ。単純馬鹿な男たちとは違ってね』
 その言い様に、画面の内外で秀一たちは苦笑を交わした。
「確かにそっちの男たちは、頭より先に体が動くタイプばかりだね」
 だからからかい甲斐があるってもんだが、というのが本心であることは、口に出さずともお互いわかっている。
「……やってみたらいいんじゃないか?」
『そう言ってくれるのかい?ありがとう。……彼女なら、一対一で話をすれば頭から否定するようなことはないだろうからね』
 じゃあ、話に行ってくるよ。
 そう言って『秀一』は画面上から去った。

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