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 それとほぼ同時刻――日本では十七時半を、そして遊帆のいるイギリスでは八時半を回ったころ――、再び結城本社の回線を使って志津馬はインターネットにアクセスした。
(……都合よく使い始めてくれて助かった……)
 他の社員に紛れてならば、不正なアクセスもそれほど目立たないようにすることができる。
 チャットルームに接続。遊帆はきっといないだろう。だが書き込みを残しておくだけでもいい。どうせこっちは常時接続だ、返事があったときに応えればいいだけのことである。
 だが予想に反して、すぐさま反応が返ってきた。

 C.B.Freak> ご迷惑おかけしました(^^; 復帰です。
 UFO> ……遅いぞ。こっちはしっかり電話代かかってるんだ。
 C.B.Freak> あれ?……いたんですか(驚)。仕事は?
 UFO> そっちが心配で手につかないんだよ(苦笑)。
 C.B.Freak> それは好都合……というかなんと言うか(苦笑)、
とにかくちょっと厄介な状況になっているんです。
もしかすると実験、中断しなければならないかも。
 UFO> ……何?どういうことだ?
 C.B.Freak> それなんですけど……あ、ちょっと今から
送るもの読んでください。

 
 志津馬は先に書いておいた文書をメールに添付して送りつけた。

 C.B.Freak> 正直言って実際に見てもらったほうがいいと思うんですよ。
ぼくの早とちりかもしれないし、本当に危険な事態だと決まったわけでもない。
だけど何だか……何だか嫌な予感がするんですよね。
ぼくみたいな科学の信奉者がこんなこと言っちゃいけないけど。


 画面の向こうの遊帆はしばらく考え込んでいるらしく、反応がなかった。

 UFO> 確かにこれはおかしい。俺は直接見てるわけじゃないから確かなことは言えないが、
最初の頃は彼らもそこを「異世界」って認識してたわけだろう?
 C.B.Freak> ええ。
 UFO> あいつだ。……文字通りの『精神を持った機械』になっちまったみたいだな。恐らく奏流が自分の意志でやっているんだ。
 C.B.Freak> ……そんな、まさか……。


 考えたくない可能性だった。
 機械が意思を持ち、製作者に背くとき。
(……覚悟が、足りなかったのか)
 まさかこんな事になるなんて。
 
 C.B.Freak> ……で、どうします?

 それでも外面だけは冷静に、問いかける。

 UFO> 抹消するさ

 返事は淡々としていた。
 
 UFO> もうすぐ俺も日本に戻る。実は飛行機の時間、かなり迫ってるんだ。まあ限界速度を更新した特別機ってくらいだから、ここからでも大してかからない。せいぜいが三時間くらいだ。

 その速度はちょっと常識では信じられない。もしや途中で亜空間飛行でもしているのではないだろうか。……秀一が開発に関わったそうだからないとは言い切れない、と志津馬は思った。

 UFO> だから――準備しててくれよ。外からでも中に細かく干渉できるようなプログラムをさ。
 C.B.Freak> ええ、わかりました。……旅のご無事をお祈りしてます♪


 遊帆は最後に「じゃな」と書き込んで接続を断った。
 ……志津馬は嘆息する。気乗りのしない仕事をする羽目になってしまった――とはいえ自分の責任だから、気が進まないなどと言っている場合ではないのだ。
「仕方ないなぁ……でも目を離すのも怖いし……」
 あ、そうだ。
 志津馬はにやっと笑った。名案を思いついたのだ。
「すみませんが、もう一度汚れ役をお願いしますね、主任っ♪」

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