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 機械だらけの部屋の中、ただ一人不自然な姿勢で志津馬は眠りつづける。しかしそれでも彼が組んだプログラムと彼自らが考案したスーパーコンピュータの一群は、黙々と演算作業を続けているのだった。
 ……尋常な機械は、人間が困っていても理解できない。
 人間が困っていても、決して、自ら助けてなどくれないのだ。

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      *      *      *

「やあ、どうなっている?」
 秀一はいとも気楽そうに、すたすたと混雑した廊下に侵入してきた。
「しゅ、主任……。遅いですよ」
「うん?どうしたって言うんだ……」
 既に[STEB‐SOUL]は通常動作に戻っている。きっちりとメッセージをメモしておいた社員が秀一にそれを手渡した。
「そ、そのメッセージが……透明人間が打ってるみたいに、その」
「ああ、キーボードが勝手に動いたとか?なるほど、心霊現象だね」
 あっさり言ってのけてメモを読む。
「ふむ。なるほどねえ……」
 ――危険性は理解しているらしいな。
 一つめのメッセージ――『不用意に手出しをすると、結城友典氏とそのご友人がたの身の安全は保障できません。これはぼくが手を下すか否かということに関わらずありうる可能性です』とは、[STEB‐SOUL]が外部からの干渉で不安定になれば参加者プレイヤーの安全が保証できなくなる、ということである。無我夢中で研究していたとは言え、志津馬は最後の一線だけは見失っていないと想像できた。
「その『Siduma.F』って、前にこの部署にいた藤沢志津馬の事なんですか?」
「ああ、そうなるね。死んでもなお情熱を失わない、これぞ研究者の鑑というものだ。生きてた方がよっぽどいいけどね」
 さりげなくフォローしてみたりもする。志津馬に追いつくためなら死んでしまってもいいと思っていそうな奴がいるからである。
「『ぼくの唯一の夢を叶えるために必要な』――この続きはないのかい?ここまでで……途切れた、と?」
 問いながら。
 心の中では、確信していた。
 間違いない、もはや志津馬には余力がないのだ。
 あちら側・・・・から現実世界へと干渉するような、困難な芸当をするだけの力が。
「……参ったな、これはどうも後味が悪くなりそうだ――受け入れてくれそうもないが、あいつにでも頼んでみるか?」
 家を離れて一人暮らしをしている、何かと気苦労の多い末弟の顔を思い浮かべながら、秀一は静かに呟いた――。

To be continued   


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