八、流転るてんする運命うんめいきたるべき離別りべつ


「インターフェイス……ですよ。しかも、今流通しているどの型とも違う。とんでもなく高機能で――それだけに相当値もかさみますね、これは」
 医療班と区別がつかないほど白衣が似合う電気電子部門の女性が呟いた。童顔に興味深そうな表情を浮かべている。
「言っちゃなんですけど……秀一主任なら相当に好きそうなブツです」
「……おいおい勘弁してくれよ、またそれかぁ?」
「私にはまだ断言できかねますけど、その可能性は否定できないです……ね」
 やれやれ、と電気電子部門スタッフたちがお手上げ状態に陥っている横で、医療班は真剣に友典たちの様子を観察した。
「……どうやら眠っているだけだ……。全く心配かけさせる――」
 が、そのとき瞼の下で結城友典の眼球が激しく左右に動き、身体がびく、と一度痙攣した。ごつい体格に眼鏡の医療班主任、吉川健次郎がぎょっとして再び友典の上に屈み込む。しかし、特に異常は認められなかった。
「眼球の急速な動き、それに身体の運動が認められる――。REM睡眠……もしかすると今、夢を見ているのか?」
 REM睡眠――Rapid Eye Moving Sleep(眼球の急速な運動を伴う睡眠)。別名逆説睡眠とも呼ばれ、夢を見ているときに観察されるといわれている睡眠の形である。眠りの深さで言うと浅い眠り、ということになる。
「ねえねえ吉川さん、今――えーと友典さんが身動きしたとき、インターフェイスの通信ボタンが点滅してましたよ」
「何だと?」
 断言はできないが――それは、『インターフェイスからの情報によって、友典の夢が左右された』ということを表している可能性が高い。しかも、
「あー、これ……五人分全部のコードが、こっちの部屋の通信機に繋がってますよ」
 部屋の外までコードを追っていた彼女――里見英理えりという――が、別に驚いた風にも聞こえない声で言った。
「その通信機はどこに繋がってるんだ?」
「ええと……コードはなさそうですね。無線なんかの通信機を改造したみたい。これも相当高性能ですね……あ、でも……ちょっと待ってください、これが向いてる方向の窓の外に中継器があるようですから……ね、吉川さん、そっちの部屋から見えます?」
 真剣に調べているのだろうが、どうも吉川と彼女のペースが合いすぎていて周囲のメンバーは置いて行かれ気味である。
「……おまえほどよくは知らないからな、形がわからない。どんなものだ?」
「うーん……そうですね、アンテナ探してください。目立たないように周りの物と同じ色になってるんですけど、見て見えないものじゃないです」
 しかしそういう彼女の視力は――毎日のように終日、時には夜通しパソコンを扱いながら不思議なことだが――両眼とも裸眼で2・5以上あるのを吉川は知っている。
「大きさは」
「三センチ弱くらいです。最初に設置されてるところは二十メートルくらい先の門柱ですね」
 そんなものがそう簡単に、はっきり見えてたまるか、と吉川は呻いた。彼の視力は正直、良いとはいえない。
「見えないかもしれないけど、あるんですってば。信じてくれないんですか?」
「……いや、信じるが」
 どうも自分は、彼女に弱い――吉川は少し眉を寄せた。
「わたし、結局これがどこに繋がってるのかを調べに行ってきます。後はよろしくお願いしますね、吉川さん」
 吉川さんだけか。吉川さんだけなのか。
 周囲のスタッフたちは微妙に白けてしまう。
「あっと。……皆さんもよろしくお願いしますね」
 にっこり。
 笑顔を浮かべて出て行く里見を、しばし呆然と一同は見遣って。
「……里見さんあんなにかわいいのになー、何で吉川さんがお気に入りなんだろ」
「いや、実は俺も不思議だ……って、おい、待て。今何か失礼な事言わなかったか?」
「いいえ、別に?」
 そんな事はいいから仕事をするべきなのだが、しばらく一同はそれで盛り上がってしまっていた。
 さすがに秀一の部下たちである、と、言えなくもない……。

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