ほとんど全員がへろへろに疲れきった帰り道。
「ああもう、何なんだこれは一体!」
 兄が関わっているということで諦めたとはいえ、いまだ怒り冷めやらぬ様子で友典が言う。
「不思議な状況ですねえ」
 由乃は笑った。
「面白いといえば面白いんですけど……」
「ほんまに面白いかぁ?疲れるだけのような気もすんねんけど」
「……まあ、面白いっていえないこともないよね」
 秋が苦笑する。
「何か、奏流があんまり楽しそうなんで、その勢いに流されてるしね」
 奏流がきょとん、と秋を見上げた。
「奏流は本当に、いつも楽しそうですからねえ」
「由乃もいつも楽しそうじゃん」
 英晴が言った。
「え、そうですか?」
 由乃はきょとん、と英晴を見返す。
「あはははは、似てる!奏流そっくり!」
 奏流もきょとん、と秋を見返した。
「あ、ほんとだ、似てる似てる!」
 英晴も笑い始めた。何やってるんだ、とばかりに振り返った友典も、二人を見比べてくすくす笑いをはじめる。一粋なんて言うまでもない。
「もう、皆さん揃って……」
 由乃は少し拗ねたような顔をして見せたが、やがてふふふ、と微笑んで奏流を抱き上げ、
「親子みたい、ですか?」
 とのたまった。
「……なるほどなあ、そうも見えるわ。表情そっくりやし」
「由乃、おかあさん?」
 首を傾げる奏流。
 そのあどけない顔に微笑みかけ――由乃は、何だか泣きたくなった。

 藤四郎は機械だらけの部屋を出て、六人の姿を眺めていた。六人は今、ちょうどこの街最大の娯楽施設である遊園地《パラダイスガーデン》の横を歩いているところである。
 先刻外に出ていたとき危うく由乃に感づかれかけたので、今度は少し距離を離してその遊園地のジェットコースター、《ワンダーストライクコースター》のレール上に座っている。
 見ているうちに、ひどく寂しくなった。
 まだ別れて一日くらいしか経っていないのに。何でこんなに懐かしいんだろう。何でこんなに、彼らの側に行きたいんだろう。
 ……駄目だ。まだ、計画は終わっていない。まだ破綻させるようなことをするわけにはいかない。それに、あれほど疑われているのだ、受け入れてくれるはずもない……。
 と、奏流を地面に降ろして、由乃が突如立ち止まった。奏流を含めた他の五人は気づかないのか、談笑しながら進んでいってしまう。
 自分の方を振り返った由乃の表情に気づき、藤四郎は愕然とした。
(――みえている――!)
 自分は今・・・・誰からも見えないようにしていたはずなのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 驚愕に思わず身体を強張らせる彼を、由乃は見つめた。
 その瞳に彼を責める色はなく、むしろその視線は慈愛に満ちてさえいたが――彼は、どうしようもなく哀しくなった。
 あなたは、あきらめることができないのですね。
 由乃の唇がそう言葉を刻むのを彼は見た。
 しばらく逡巡したあと、彼はひどく寂しげで、そして決然とした微笑みを彼女に向けた。
 彼女は、それと同じくらい寂しそうな視線を投げかけて身を翻し――仲間たちに合流していった。
 彼は、また一人になってしまった。
 ゆらり、と白衣の裾を揺らし、彼の姿は虚空に消えた。

To be continued   


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