羽鳥大学に行くため歩いている間ずっと、奏流は嬉しそうに飛び跳ねていた。
「なんやなんや、ずいぶん嬉しそうやないか?何かええことでもあったんか?」
 一粋の問いに、一瞬だけ立ち止まって奏流は答える。
「じぶんで外に出るの、はじめてなんだ!」
 言い終わるや否や軽い調子で飛び跳ねていく奏流。
「――え?」
 一粋は、思わず立ち止まった。
 あの歳で――いや、実際のところいくつなのかは聞いていないが、多分外見から言って十歳くらいだろう――、一度も自分で外に出たことがないと言うのは、一体どういう境遇なのだ?
「……?」
 顔いっぱいに疑問符を浮かべた一粋に、後ろから追いついてきた由乃が声をかけた。
「……あの子は、本当に生まれたばかりですから。姿かたちはああですけど、赤ん坊と変わらないんです」
「……あ、そやったんか」
 一粋はあっさり納得した。
「ああ、皿屋敷のお岩さんなんか、もうえらい歳のはずやけどまだまだ若い姿で出てくるもんなあ。幽霊みたいなもんは年取らんのかな」
「ええ、そうですね。基本的には外見の年齢は動きませんね」
 まあ、幽霊にも色々な方がいらっしゃるんで、そうとも言い切れないんですけど。
 由乃はそう付け加えて、笑った。
「なんや?俺、何かおかしいことゆうたか?」
 確かに自分の今の発言は、その分野に詳しい人間にとっては間抜けなものだったかもしれないが、そういうことで笑う由乃ではない。
「……いえ、ある幽霊かたの事を思い出しまして」
 なんだか知らないが面白い幽霊がいるらしい。今は忙しいですから今度ご説明しますね、と言って由乃は奏流を追いかけた。
「ふうん……結構楽しそうやなあ、そういうの見えるのも」
 多分、辛いことも苦しいことも、いろいろあったのだろうけれど。
「――ま、話せるようになってくれてよかったわな」
 呟いて、一粋も少し離れてしまった前方の集団を追った。

「――早く早くぅ!」
「あ、こら、早くって言ったっておまえ道知らないんだろっ?あ、そっちじゃないって!こら、待て!」
 集団の前方では、また英晴と奏流がデッドヒートを繰り広げていた。
「元気だねえ、二人とも……転んで怪我なんかしなきゃいいけど」
 秋は苦笑してそれを眺めた。
「ああ、しかし……英晴のあの無邪気さは一つの才能だと思うね」
 友典も妙にしみじみと呟く。
「まあ英晴はあんまりもの考えてないだろうけど、それもある意味才能よね。ああも天真爛漫に遊べるってのはさ」
 一旦言葉を切ったあと、あーあー、やだやだ、と秋は呟いた。
「大人みたいなこと言ってるわ。それも世間の荒波にもまれて、くしゃくしゃの洗濯物みたいになった大人。あたし、まだ若いのに」
 秋の喩えがおかしかったので、友典は少し笑った。が、
「――冗談じゃない、あたしはまだまだ遊び盛りだわ!」
 秋はそう言ってきっと顔を上げ、
「ほら!一緒に走るわよ友典!」
「……え、何だって……!?」
 いきなり友典の手を引っ張って走り出した。走り出してしまえば友典は速いが、あまり唐突なのでついていけない。
「あ、待ってください秋さん、友典さん――」
「ちょ、ちょっと待ってぇな!?」
 後続の二人も慌てて走り出した。
 そして、さしたる理由もなく六人は羽鳥大まで全力疾走する羽目になってしまったのである。

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