食卓が片付いたあと、由乃は少年についていくらか説明を付け足した。恐らく普通の『人』ではない、ということも述べた。これまでの彼女にはできなかったことだ。大きな進歩である。
「ねえ、で、その子は何て呼べばいいの?」
 興味津々、といった様子で秋が問う。
「え?……あ、そうですね。まだ聞いてみていないんですが」
 それを聞かなかったのは、彼女が『名前で呼ぶ必要がない存在もの』と日々向かい合っているせいだろうか。
「ええと、お名前はなんでしょう?」
 少年はまたもきょとんとした表情で、由乃を見上げ。
「……奏流そうる
 答えた。
「へえ、奏流くんって言うんだ。よろしく、あたしは秋お姉ちゃんだよ」
「秋……お姉、ちゃん?」
 少年――奏流は繰り返すと、秋に向かってにっこり笑って見せた。

      *      *      *

「……おい、おかしいぞ。あの部屋の装置は動かさないことになったんじゃなかったのか?」
「……ああ、そのはずだが?何か起こっているのか?」
 結城コーポレーション廊下。……結城秀一が見咎めた部屋に、またしても明かりが点いていた。
「電気が点いてるだろ……それに、なんだか低い音が聞こえないか?」
 言われて、もう一人の社員も耳を澄ました。確かにその部屋の方向から、機械の稼動音と思しき低い音とそれに伴う振動が伝わってくる。
「……何だ?」
 二人は恐る恐るその部屋――二つ並んだ部屋の左の方に近づいた。
 さらに慎重に、どちらかと言うと逃げ腰に近い状態でドアを開け、中を覗き込む。
 壁面の半分を占める大きなディスプレイが薄明るく光っていた。表示された文字がめまぐるしく移り変わる。
「……お、おい、これは……」
「し、知らせなきゃ――」
 誰が操作しているわけでもないのに、ディスプレイ上の文字は決してランダムに打ち出されているわけではなかった。そのことに不気味さを感じて二人は逃げ出す。
 残された[STEB‐SOUL・・・・]は、低い響きを立てながら黙々と己の作業を続けていた。

      *      *      *

「ああ――そうか、僕が、藤四郎が犯人だって言ったんだね」
 ふと、ようやく思い出したらしい友典が言う。どっちかというと、聞いている仲間たちとしては「まだ考えていたのか」という呆れの方が強い。
「そや。……あんまりそう、証拠もないのに人を疑うんは良くないで。大体な……」
 一粋がお説教をはじめようとした。だがそれはどうやら友典の耳には届かなかったらしい。彼は目を閉じ、かすかに眉を寄せてひとりごちる。
「だけど……僕は、あの顔を知っている。……藤四郎とは、どこか、まったく関係のない場所で会っているような気がするんだ――」
 遠い記憶を探るように、呟いた。

To be continued   


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