きんぎょすくい
夏の最中、ボクらは出会った。
色とりどりに装った姿があちこちを行き来している。賑やかな声が聞こえる。今日は神社で夏祭り、たくさんの出店とたくさんの人が出て来ている日。子供たちも大人たちも、皆が楽しみにしている日。
……でも、ボクらにとっては多分、最初で最後のお祭りだ。
ボクはちょっとしみじみして、ちょうちんや、出店の屋根や、もうすぐ花火が始まったりするだろう夜空を見上げた。
でも少しすると飽きて、ボクはすぐ近くにいたおじさんに声を掛ける。おじさんは丸々とした硬そうな身体で、不思議なことにほとんど絶え間なく息を吐き続けている。堂々と構えたその姿は……こういうのが貫禄があるって言うのかなあ。なかなか動きそうもない、感じ。ただお祭りに来ただけじゃない、きっと仕事で来てるんだな、って感じの雰囲気がある。
「おじさんはもう何年もここに来てるの?」
「ああ、坊主が生まれるより随分前からな」
少しくぐもった声の返事 が返ってきた。
ボクは泳いでいる小さいのを一匹、ひょいと捕まえて口にした。おじさんは笑いながらボクを見ている。いつもほかのものを食べているから、おじさんはボクみたいにものを食べなくてもいいんだって。
「坊主は元気だな」
「もちろんだよ。流行り病なんて、ボクには縁遠いよ」
病気になった子は、ここには連れて来てもらえない。当たり前のルールだ。他のみんなにうつっちゃうしね。
「……なあ坊主、いつまでも元気でいろよ? もっともこんな縁じゃ、二度とは出会わないだろうが」
「あはは、まかしといてよ」
ボクは笑って周囲を見渡す。
それにしても本当に狭い。狭いというよりは、友達がいすぎて、どうにもならないんだ。身動きするのにも気を使う。お祭りって怖いもんだよね。
そういうとおじさんはまた笑って言った。
「大丈夫、もう夜だ。今は狭くても息苦しくても、もうじきいなくなっていくさ」
「そうなの?」
「ああ、何年もそういうのを見てきたよ」
おじさんがまた笑うのを見て、ボクは「そうなのかぁ」と思って無意識に自分の身体を叩いた。
自分の存在を、確かめるように。
――そのとき、天を割って白い丸いものが入り込んできた。なすすべもなく追い詰められてボクはそれに乗っかってしまう。息がぐっと苦しくなる、上昇の感覚。
「……坊主! 元気でなあああ!」
おじさんの声がかすかに聞こえて、ボクは黄色い小さな部屋に押し込められる。
少しすると、友達ひとりと一緒に、そこから別の部屋に移された。
透明な壁の向こうに、浴衣に描かれた花火の模様。定期的な振動で、部屋がとっても大きく揺れる。
……夏の最中、ボクらは出会った。
さあ、これから一体何処に行くのだろう?
ボクは小さく泡を吐きながら、めまぐるしく移り変わるビニール膜の向こうの風景を、ゆっくりと、眺めた。